新しい自分の局面を切り開いていきたいという人にはいいきっかけになると思います。

このページは生徒さんインタビューシリーズ。第4回目は高校の音楽教諭で、かつ、ジャズピアノも他教室で習っていらっしゃるOさんにお越しいただきました。Oさん、どうぞよろしくお願いします。


はじめに、当教室を選んだ理由や、どういうところに興味を持ちましたか?

友人の紹介です。彼の話のどこにヒットしたのかな?(しばらく考えこむ)自分の世界に必要なものかどうか匂いが…なんか匂いがしたんです(笑)いやいや、なんだったろうな?最初は…。

やっぱり和音の響きにある一つの音を…、ドミソが鳴っている中でミの音を出すっていうこと自体は、そりゃ自分もやったことあるし、やらせた事もあるんだけれども、それを徹底的にっていうか、その…完全に自分の声が聞こえなくなるという経験が出てくるまでじっくりやっていく事で自分の耳が開いてくる事に、おそらく自分の耳もそこまでできてないと思ったし、それを音感の訓練としてやって自分の音楽人生のなにかこうメリットがありそうだっていう、そういう勘ですかね(笑)

で、実際に入ってみてどうでしたか?入る前と入ってレッスンを受けた後では?

そうですね、おそらく、入門して一か月、二か月したころのほうが「レッスン後、家に帰ってああいう結果があった、こういう結果が出た」って言ってたと思うんですが、もうその頃からだいぶ日にちが経っちゃっていますが、そうですね…(しばらく思い出している)

※Oさんは約二年レッスンに通われています。

音を聞くということに対して徹底的に訓練していくので、もう当然聞こえ方が変わってきます。自分の演奏中の音の聞こえ方も当然変わってくるし、すると、以前は自分の出している音を聞いてはいなかったんだな、ということがあとでわかりました。

指は動かしていたけれども、順番として音を間違えずに弾くというこはしていたけれども、聞こえてはいなかったんだな…と気付かされました。

そこなんですよね、「聴く」っていう意味がね。ま、みなさん聞いてはいるんですけどね、聴こえていないっていう…

物理的に聞こえているし、それがおそらく脳のほうには行っているんだろうけれども。意識的に訓練をしないと、その聞こえてきてるものに対して、対応の仕方みたいなものが出来てこないんじゃないか…と思います。

Oさんはジャズのセッションが変わったっておっしゃっていましたね。

自分のピアノの音の聴こえ方が変わってくるのですからグループで演奏している場合なんかは、相手の音が聞こえてきます。
反対に相手が自分の音を聞いてないな~っていうこともわかっちゃうんですよね(笑)

ジャズピアノの先生にも「ちゃんと聴いているな」って褒められたそうですね。

そうですね。私がちゃんと音を聴いてプレイしているっていうのは伝わるみたいですね。

ちゃんと聴ける人には分かりますよね。相手が自分の音を聴いているのかどうかというのは。連弾とかセッションとかしてても聴いてないってわかると寂しいんですよ(笑)

そうなんですよね、偶然的に一緒に音が走っているってだけで(笑)

Oさんが音楽の授業のテストで自分がメロディをうたって、生徒さんがハーモニーを歌うっていうテストをしたときも何か今までと感覚が明らかに違ったっておっしゃってましたよね。

ああ、ありましたね。

生徒が自分の音を聞いてないととても歌いにくいって。

はい。相手の生徒がどこまで音を聞いてるかってのはわかってきますね。
もし、同じようなテストをやっても以前は、ただ単に生徒が間違えずに歌えてるかどうかってことしか判断できてなかったですね。生徒が和音の響きにまで入って来ようとしてるかどうかは自分自身もわかってなかったと思います。

Oさんは、音感レッスンを始めて一年くらい経ったところからまた感覚が変わってきたとおっしゃっていましたが。

自分の耳を使って演奏し始めるようになってから、自分が出したいピアノの音が、ある意味、自分の趣味ですかね、好きな音が変わってきたっていうのはあります。

具体的には?

言葉でいうと難しいんですが、粗雑な音が好きじゃなくなったというか、繊細な音というか、よりピュアな音というか、ジャズみたいなものはアタックつけてガンと弾くことがあるんですけれども、アタックつけるのが嫌いかというとそうではないんですけれども。それは音楽のもっているスタイルなので、アタックを抜かしてふにゃふにゃに弾くということではないんですが、アタックはつけて、たまには強いタッチで弾く事もあるんですけれども、全体的にやっぱり粗雑に弾くことの嫌悪感があります。

きっと表現の感性がきめ細かくなってきたんでしょうね。で、なんか、即興する時の音数が…

ああ、なんか、昔は粗雑に弾いてた時、なんでもかんでもたくさん弾いていたのが、自然と音数を減らして、その範囲の限られた音の中で表現するというか、音色も自分が狙った音色で弾くというような事をできるようになりました…とまでは言わないけれども(笑)、そっちの方向へ向かっていっているなという事です。

不思議ですよね、僕はジャズのピアノを教えているわけではないのに、耳が開くと自然にいろんな変化が起こってくるんですね。
もし、このレッスンを誰かに薦めるとしたら、どんな人に薦めますか?

ある程度専門的にやってきた人、アマチュアで楽しんでいる人、これからやっていこうとする人。
今まで音楽をずっとやっている人向けには、長年やってて自分のスタイルはこうなんだと変わろうとしない人はおすすめできないかもしれないけれど、自分は今までこうやってきた、でも、また違う自分を開発するというのかな、また違った自分と出会いたいととか、今までやってきた事も良し、しかし、また新しい自分の局面を切り開いていきたいという人にはいいきっかけになると思います。

具体的に技術を向上させるというよりは、音楽を訓練したり練習したり、曲をまとめていったりする上での大元になる「音を聞く」という行為を徹底して見つめていくと、自分の中で何か変わっていくことがあるのかな?ということに感覚がある人にはお薦めじゃないかな…と思います。

「自分はこれでいいんだ、ここからは出たくない」という感じの人は確かにいますよね。Oさんを紹介してくれたKさん(ミュージッククリエイター)がある人にこの教室のレッスンを紹介しようとしたけれども、その方が「ここに来たら、今までやってきたことが全てくずれそうで怖いからやっぱり行かない」おっしゃったそうです。確かに今までの感覚が色々変わってくるので、そういう恐れのある人には抵抗があるかもしれませんね。

おそらくは、崩れないと思うんですよ。でも、本人が崩れちゃうって思いこんじゃったらどうしようもないけど(笑)
だから、試しにやってみたら?って思うんですね。ここでやったことが気に入らなかったら忘れちゃえばいいんで(笑)

私の例でいうと、昔は自分の出した音は聞いてなくて、ここでレッスンしていくうちに自分の音を聴くようになりましたと。
要するに、自分の音楽家としての性質が変わったとして、それがもしいやだと思うなら元の自分に戻せばいいだけのことなので(笑)

こちらにいらっしゃる方は、皆さん向上心のある方や、すごく謙虚な方が来るようにと思いますね。
僕より年上の方がほとんどですけど、みなさん、すごく謙虚で謙遜で学ぶ姿勢があって…。 これを学ぶことで足りないものを補えたり、新しい自分を開かれたりということへの直観がある人が来るんでしょうかね。

僕はアレクサンダーテクニックをやっているんですが、分離唱はアレクサンダーテクニックと共通するところがあるように思います。それは、自分の耳を開こうとか、「自分の音が聞こえてませんよ」って無理に努力して聞こうとしなくても、ここで練習しているうちに自然と変わってきて、気付いたら自分のプレイに変化が出てくる。

それって演奏している最中の自分の聴覚に変化が起きてきて、自分のプレイが変わってくるってことなんですが、それはどっちかというと、演奏中の仕方が変わるんじゃなくて、演奏中の自分のあり方になにか変化が出てくるんですよね。

ある種のやり方を練習しているんじゃなくて、あり方に焦点を合わせてメスを入れていく。アレクサンダーとは同じではないし代用にはならないけれど、同じスピリットがあると思う。
アレクサンダーなんかも「やり方」だと思って、ただの方法論と思っている人はすぐにやめちゃうんですよね。
なんか「やり方わかった」みたいな感じで。
でもやり方、方法ではないんですよね、存在の仕方を学んでいくという…、禅問答みたいになってきちゃうんですけど(笑)

だから、これだけ「音を聞く」って事に集中してやっていくってことは、thinking in activity 要するに活動中にシンキングをする、これも分離唱の練習をしていると演奏の最中に耳が作動していく。っていうものにつながっていくと思います。

世の中にはたくさんのメソッドがあるから、ただのトレーニングとして目指す人は途中でとわかんなくなっちゃうかな。
別に何かを磨いているというよりは、もともと備わっている聴覚を引き出すっていう感じですね。

本当にそうだと思います。僕自身、生徒さんにレッスンの中で一体どういう変化が起こるのかは全く予想しないのですが、自然と本人の持っている色々な可能性が引き出されていくというのはとても面白いです。